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今月の熊G 2026年6月

piyo-kamakura
7月21日
読了時間: 4分

「くくるとか、分けるとか、インクルーシブとか、そういう言葉はいらんねん」。不登校のいない大阪の大空小学校の初代校長だったその人は、あらゆる境界線を消していく“人間消しゴム”だった。日曜日のお話し会でピヨに来られて最初に「木村先生て呼ばんと泰子さんと呼んで」と言った。教える側と教わる側の境界線がまず消された。


泰子さんはクラス間の境界線を消した。

大空小はクラス担任制をなくし、教師みんなが学校の子どもたち全員をみる体制にした。教師にとって全校の児童が自分の子どもであり、子どもにとっては教師全員が自分の先生になった。一人の児童にとって相性が悪い教師と1年間我慢して過ごすつらさはない。保護者の間で「当たり」「はずれ」などと陰口を言われることもない。いわゆる「学級王国」という担任が君臨する閉鎖的なクラス運営もない。授業がオープンになるから職員間の風通しが良くなる。いいではないか。

泰子さんは健常児と障がい児の境界線を消した。

「机をたたき続けてる子、クラス内を走ってる子、すぐ友だちを殴る子、そういう子がいるのがあたりまえやで」。障害者手帳を持っている子の数によって支援学級の数が決まるが、大空小学校は通常学級の7に対して支援学級が9という年もあった。その16のクラスを通常と支援に分けないで、健常児と障がい児をいっしょにした。だれでも多少の特性はあるはずなのに部屋を分けると支援級の子は格下だという差別意識が生まれてしまう。また障がい児はみんながいるにぎやかなところにいたいと思っても、それでは指導ができないと考える大人の思惑で支援級に行かされる。そうじゃなくてみんなと一緒でも支援できるようなクラスの体制と雰囲気にすればいいのだと泰子さんはいう。いろんな人といっしょにやっていくのがあたりまえなんだと子どもたちが理解する。いいではないか。

泰子さんは学校と地域の境界線を消した。

「保護者という立場をシュレッダーにかけて、サポーターになってもらった」そしてサポーターならだれでもいつでも学校に来ていいことにした。先生の数より地域のサポーターの数の方が多くなった。別に教育の専門家である必要はない。子どもたちとともに学ぶ気持ちがあればいい。毎朝孫を校門まで送ってくるおじいさんがいた。泰子さんが中に入ってサポーターやってくださいと言うと、中学しか出ていないから自分は勉強を教えられないという。「知識を与えようとか、しつけしようとか思わないで、たとえば友だちを殴ってしまった子に、どうしたん、大丈夫?と寄り添ってほしい」そう言うとおじいさんはそれから毎日学校に来て子どもたちに寄り添ってくれた。去年亡くなられたとき、たくさんの大空の子どもたちがお通夜に行ったという。

泰子さんの言い方では「学校が地域になった」。学校とそのまわりを分けている境界線がないのだから学校の中も地域だということか。だからいろんな人がやってくる。「不審者が入り込む危険がありませんか」とよく聞かれるらしい。ある卒業生の言葉。「学校に変った人がたくさんおるから、本当に変な人は入ってこれないです」すごくいいではないか。

開校して7年目に1年間取材して映画を撮らせてくれという話が来たとき、保護者に手紙を出して意見を聞いた。個人情報が洩れるとか、子どもの学習に差しさわりがあるという意見が来るのが普通だ。ところが220人の子どもの保護者から反対の意見はひとつも出なかった。学校が地域としてオープンになっているからだと泰子さんは思う。保護者の一人はこう言った。「反対?まだ何か隠してんの?」

大空小学校は大阪市立の公立小学校だ。公立でここまでやれるとはおどろきだ。しかし事実できているのだから鎌倉の小学校でもできないはずがない。でもそれには泰子さんのようなカリスマ校長が必要なのか。泰子さんは言う。「地域のみんなが動けば学校はきっと変わります。それにはまず自分ごととして考えて自分が変わること」

それはつまり、今のあなたを囲んでいる境界線を自分自身で消せと、人間消しゴムは言っているんや。ゴシゴシ。


熊倉洋介

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