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今月の熊G 2025年6月

  • piyo-kamakura
  • 6月12日
  • 読了時間: 4分

ピヨの保育で育った子はその後、思春期をどう過ごしてどんな大人になるのだろう?今月の熊Gは、ピヨの保護者がみんな考える「ピヨ後」についてのおはなし。

その男の子はピヨピヨ保育園の最初の卒園児のうちの一人だった。入学した小学校のクラスは授業中も立ち歩きやおしゃべりで騒然としていて、じっと座っているのはその子ともう一人のピヨの女の子の2人だけだったかも。友だちといっしょにサッカーを始めたが2年生でやめ、その後の小学生時代の週末のほとんどを好きな釣りのために費やした。中学ではバスケ部に所属してキャプテンだったが、べつにバスケットボールがうまいわけではなく5人しかいない部員で他になり手がいなかっただけ。ちなみに他校との試合は全敗。

中学では授業を真面目に聞いていて成績は悪くなかったから高校入試では自分で見つけた単位制の志望校に入学した。ところが高校では勉強はそっちのけでバンドを組んで自作の曲を文化祭で披露するなどしていた。当時親が、10年後にどうなっているつもりなのかと聞いてみたら、バンドで売れている、と答えた。

中学のとき塾に行ってみたものの眠すぎると言って1週間でやめたが、現代美術に興味が沸き、高3の時に美大受検予備校に通い始めた。そして芸大の入試で石膏デッサンの実技試験を受けた。ところが試験会場で他の受験生の絵のレベルの高さに圧倒され、おれの来るべきところじゃなかったと思い知る。一浪して私大の芸術学部に入学したが途中からコロナ禍となりキャンパスライフは物足りなかったようだ。皿洗いや清掃のバイトなどしていた。

卒業が近づいても就職活動している様子はない。そのかわりネットで古本を買い揃えている。昔の噺家(はなしか)の名前が背表紙に並んでいる。何しているのか聞いてみると落語の勉強だという。落語家になるのだそうだ。

落語家になるためには誰か師匠の弟子にならなければいけない。そういう制度らしい。古今亭文菊という落語家の弟子になりたいという。その師匠の噺が素晴らしいのだという。しかしその師匠はこれまで弟子をとっていないのだそうだ。

卒業式の次の日、寄席の裏口で文菊師匠が高座を終えて出てくるのを待った。出てきた師匠に弟子にしてくださいとお願いするも、今は弟子を取りませんとすげない答え。しかしそれを聞いて、今は取りませんというのだからそのうち取るということだと受け止めた。そこで半年ほど時間を置いてまた頼んでみようと考えた。その間遊んでいてもしょうがないので、夏の間だけリゾートホテルでバイトすることにした。そして半年後の秋、また寄席で出待ちして出てきた師匠に弟子にしてくださいと頼んだ。しかしまた同じ答え、今は取りませんと。また半年待つことにし、今度は多くのお客さんに話をする仕事がいいと考えて工場見学の案内役のバイトを始める。そして2度目の春、また出待ち。そしてまた断られる。でもそのとき師匠が、弟子が家政婦だったら助かるなと言ったので、工場案内と並行して家政婦(夫?)のバイトも始める。そんなぐあいに半年ごとに出待ち・断られ、をつごう5回。いつしか二年半が経った。ところがその年の年末、師匠から電話があって見習いにしてあげましょうと言ってもらえた。これでやっと落語家になる道が開けたと思った。ところが年が明けて師匠から手紙が来た。やっぱり弟子にできませんと書いてあった。

さすがにもうこれは望みがないと、文菊師匠の弟子になることは諦めた。しかし落語家になることを諦めたわけではない。今年の春、縁あって柳亭こみち師匠という文菊師匠と同期の落語家の弟子にしていただけた。柳亭ちょいと、という前座名もいただいた。

両親が決めたのは保育園時代TVなし、小学生時代ゲームなし、中学生時代スマホなしだけ、あとは本人まかせ。この人の人生がしあわせな人生なのか、そこにピヨの影響があるのか、よくわからない。ただ、自由であるということだけは間違いなさそうだ。

熊倉洋介

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