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今月の熊G 2025年12月

  • piyo-kamakura
  • 2025年12月12日
  • 読了時間: 4分

子どもたちは水遊びが大好き。昨日も熊Gが脱いだつっかけを気がついたら1才児クラスの子がジャブジャブ洗ってた。築山のてっぺんまで水を運んで川を作ったり、シャワーで水撒きしたり、冷たさなんか気にしない。水は最高の遊び道具なので園庭の水道は使いたい放題にしている。

水と平和は空気のごとし、という言葉がある。日本のことだ。あるのが当然で、なくなる心配をしたことがないという意味だ。でもそれって思えばとても恵まれていることで、水に困っている地域は世界にたくさんあるはずで、そういうところでも子どもたちが育っている。

30年前、アフガニスタンを大かんばつがおそった。それまで緑で覆われていた大地はカラカラに干上がって、農業は壊滅、衛生状態も悪化した。そこにひとりの日本人の医師がいた。中村哲。紛争で難民となった人たちの診療にあたっていたが、この人たちに必要なのは医療よりもまず水だと考え、用水路づくりに立ち上がる。

その地域にはクナール川という大きな川が流れていた。川があるならその水を使えばいいと思うだろうが、クナール川の水を畑に導くことは容易ではないのだ。用水路に水を引くには川を堰き止めて水を溜め、そこから横引きすることになる。ところがこの川は春になるとヒマラヤの雪解け水で増水し、コンクリートの取水堰を破壊するほどの激流になる。これまでソ連をはじめいくつかの先進国が近代的な技術でその川に堰を造ったが、すべて流されてしまっていた。

中村哲さんはまったく別のアプローチを取ることにした。それは江戸時代に日本で考案された堰の作り方だった。川の流れの中央に大量の石を投入して人工の中州を作り、左右に分かれて細くなった片方の流れを用水路に引き込むやり方だった。コンクリートも鉄筋もいらない。増水時には中州は水面下にもぐってしまうが流されることはない。

自然に打ち勝とうとする西洋人的な考え方ではなく、自然に逆らわないで利用させてもらうという日本人的な発想だと言えよう。こうした取水堰はかつて日本各地にあったが開発で消えてゆき、唯一残っているのが九州の山田堰だ。中村さんはそれを参考にした。現代人は伝統的なものを非効率だと言って軽視するが、残っていればこそこんなふうに役に立つこともある。中村さんが地元の人たちと作った堰と用水路は乾いた大地をうるおし、農業を復興し、彼らの生活を安定させたのだった。

熊Gはこれまで中村哲という人が具体的に何をしたのか詳しく知らなかった。遠いアジアの地で農地を作ったらしいという程度の知識で、なんでお医者さんが土木工事なんだろうと思っていた。それが最近本やテレビで彼の活動の全体像を知った。

博多出身のクリスチャンで、九州大学を出て医者をやっていたがパキスタンに派遣され現地の医師不足の状況を目の当たりにして診療所を開く。その後隣国のアフガニスタンに移って診療を続けるが、生活用水、農業用水を確保するため用水路の建設を始める。日本で中村さんの活動を支援する団体が募金活動を行い、現地の労働者を確保した。中村さん自ら設計や重機の操作を行い、工事のリーダーとして働いた。後継者を育てながらさらに工事を続ける最中、武装集団に銃撃されて亡くなった。享年73才。大変な人生だったろうし、無念な終わり方だ。家族と離れて暮らし、物質的な豊かさなどない生活だったはずだ。でもなんか、しあわせそう。なぜだろう。ひとのしあわせって何だろう。

中村さんは現地の人々の生活を見て、助けたい、見て見ぬふりはできない、だからやる、と思って、やりつづけた。ルソーは『エミール』の中で、やりたいことがあってやれる力があることが自由ということだと言っているが、中村さんの人生はまさに自由だったんじゃないか。

今年の8月31日にアフガニスタンを大地震がおそった。クナール州で大規模な山崩れや建物の崩壊が起きた。熊Gは朝のNHKラジオでその報道に接したが、すぐに思ったのは用水路はどうなったかだった。するとアナウンサーが最後に「中村哲さんが作った用水路は無事です」と言った。よかった。中村さんの想いは生き続ける。

熊倉洋介

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